
佐々木譲/人質 ハルキ文庫
↑佐々木譲の“北海道警察シリーズ”の第6作である。テンポの好い作品で、また頁を繰り始めると「続き」が気になって、あっという間に読了した…
佐々木譲の“北海道警察シリーズ”…佐伯、津久井、小島、新宮というようなお馴染みの面々が登場するあのシリーズである。文庫化されている作品は全部読んだが、本作は最もテンポが好い作品ということになるかもしれない。「或る一日の出来事」という体裁なのである…
冒頭は、何やら脅迫状めいたものを送り付けられ、額を寄せ合う男達が居るプロローグなのだが…直ぐにお馴染みの面々の物語が始まる…
佐伯と新宮が、若干不自然な状況の自動車盗難事件の捜査に出動した。その種の事件を殆ど聞かない住宅街での事件だったが、盗難被害が発生した家の隣に住んでいるという男のことが、佐伯には引っ掛かった…
他方、小島は事件を通じて関わりが出来て以来「お姉さん」と慕ってくる美容師の村瀬香里に誘われ、藻岩山辺りに在るワインバーで催されるミニコンサートに足を運ぶことにしていた。村瀬香里が仕事で少し遅くなるので、小島は一足先に会場のワインバーに出掛けた。
小島がワインバーに着いてみれば、丁度開場した辺りで、ワインバーの女性オーナーとウェイトレス、コンサートにやって来た老夫婦、演奏をする女性ピアニスト、その小学生の娘、実母が居合わせ、ピアニストの夫が少し後に現れたという状況だった。小島は、誘ってくれた村瀬香里を待っていたが、そこに妙な2人組の男が現れた。
現れた2人組の男は、富山県で発生した冤罪事件により、無実でありながらも4年間服役する羽目になった男と、その支援者であると言う。無実でありながらも服役する羽目になった男は、事件当時の最高責任者である県警本部長に、面と向かっての誠意在る謝罪を求めるのだと主張する。当時の県警本部長というのは、警察庁のキャリア官僚であり、現在は東京の警察庁で局長ポストを務めている人物だ。ワインバーでのコンサートで演奏を披露することになっていた女性ピアニストは、そのキャリア官僚の娘であるという。男達はピアニストと居合わせた人達に「協力を求めるのだ」と主張している。
こうして、不思議な“人質監禁事件”が発生してしまった…警察官である小島は、偶然にこの“監禁”の中に居合わせてしまった…
小島を待たせている型になった村瀬香里は、「今、そちらに向かっている…」と連絡を入れるのだが、小島は「中止になったから来ないで…」と伝えてくる。妙な状況になり、村瀬香里は知人である佐伯に相談する。佐伯は、津久井が所属する、事件現場に真っ先に向かうグループということになる機動捜査班の指揮を執る長正寺に照会してみた。そして“事件発生”を知り、現場に向かう…
こういう具合で、午後6時頃に事件が発生してから事件が決着するまでの、長いようで短い時間、或いは短いようで長い時間の息詰まる展開が、テンポの好さを維持しながらも濃密に描かれる…巻き込まれてしまった小島の眼前での展開、事件の「真の事情」、ワインバーに居合わせた人達の行動、「真の事情」に絡まる動き…読む程に嵌って行く…
本作は「シリーズの中の一冊」だが、各作品を通じて登場する「御馴染みの面々」がなかなかに好い。度胸と機転で窮地を乗り切る女性刑事の小島…鋭い観察と読みを見せ、推理が冴える佐伯…先輩の、或いは上司の佐伯を助ける律儀な若者というイメージの新宮…真っ直ぐで、腕が立つ男の津久井…度量が大きな、現場向きな指揮官という感の長正寺…こうした面々の活躍が嬉しくなる…
ストーリーそのものを愉しんだ他方…何か「発生してしまった“誤謬”との向き合い方?」とか「“誤謬”を容認してしまうような社会?」というような「この作者流の問題提起」というようなことも考えさせられた…
序でに…本作の作中世界の札幌は、少し日が長くなっている「5月下旬の或る日」という具合で、丁度現在の時季に相当する。新しい文庫本で入手し易いと思うのだが、「今の時季」の札幌の描写がなかなかに好いようにも思うので、そうした意味でも多くの皆さんにお奨めしたい…
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