↓そうした系譜の作品で、永く“名作”として読み継がれる可能性も在るような作品に出逢った…

富樫倫太郎/早雲の軍配者 上 中公文庫

富樫倫太郎/早雲の軍配者 下 中公文庫
↑「面白い小説は呆気ない程に速やかに…」とどんどん読み進み、夢中で読了に至ってしまった…
“軍配者”という存在は、戦国大名の家中に在って重要な役割を担っていた存在と言われるが、一部隊を率いる将というように表立った記録にハッキリと存在が示されているというのでもない。結局、彼らは今風の言い方をするならば、各種の知識を身に着けながら経験を積む“コンサルタント”のようなものである。
“軍配”と言うと、「相撲の行司が持っている、団扇のようなモノ」を思い浮かべる方が多いと思うが、あれは武将が率いる将兵の指揮を執る場面で振るっていたモノが起源である。故に“軍配者”とは、「軍配を預かる者」というような含意が在る呼称だ。ある種の“高級参謀将校”として、大将の傍らに在って戦術を練ったり、戦いに備える場面では戦略的活動の立案にも携わる。こう言うと寧ろ“軍師”という表現を思い浮かべるが、“軍配者”は戦術や戦略の立案に留まらず、吉凶の占いや、気象予報までこなしたと言われている。そして、非常に広く深い知識や勘、一軍の指揮を執るような場面で求められる度量や器量を要したことから、大名家の家中に在る色々な役職のように世襲されるような役目でもなかったという…
本作の主人公は、その“軍配者”となって行く若者である。かの北条早雲こと伊勢宗瑞に見出される若者、風摩小太郎が主人公だ。
“風摩小太郎”?色々な小説にも登場する「北条家の仕事を請けた忍者の棟梁、風魔小太郎」というのはお馴染みかもしれないが…その辺りの“事情”は是非本作で…
伊勢宗瑞は後継者である北条氏綱の更に次代を担う千代丸(後の北条氏康)を支える若者を求め、その眼鏡に叶う若者を見出した。それが小太郎である。小太郎は未来の“軍配者”たるための学問を修めようと、足利大学に学ぶことになる。“軍配者”たるための学問を修めようとすれば、関東の足利学校か京都の建仁時で学ばなければならないとされていたそうだ…現在も関東と関西に「東の○○、西の○○」というように、並び称される有名な学校というものが在るように思うが、戦国時代にもそういうものが在ったというのは面白い…
小太郎は足利学校で、山本勘助、曾我冬之助と出逢う。互いに競うように学ぶ、ある種の青春ストーリーという仕立てでもある物語が展開する…
やがて3人の若者は、「出くわすのは、互いに敵として、戦をする時か?」と別れ、各々の道を目指すことになるのだが…実に興味深い…
小太郎は「早雲の愛弟子」というようなことになるが、氏綱の下で仕事を始め、やがて氏康に仕えるようになる。その辺りで物語は幕を引く…北条家は、やがて関東一円を“王国”のようにして行く訳だが、そんな中で小太郎はどうなるのか?或いは、どうするのか?少し楽しみな場面で終わる…
本作の中で、他所から入ったにも拘らず、領国で確固とした基盤を築く北条陣営について、その「公正な統治」という特長を挙げている…何となく「示唆に富む」感を受けた…
作中、大変な好青年だった小太郎に対し、やや癖の在る人物の山本勘助や曾我冬之助がなかなかに好いのだが…実は本作は“シリーズ”の第1作で、彼らを主人公に据えた“続き”も在るらしい…それも文庫が登場したら是非読みたい。
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