↓スウェーデンの“刑事モノ”の翻訳である…大変に愉しく読了した!!

モンス・カッレントフト/天使の死んだ夏 上 創元推理文庫

モンス・カッレントフト/天使の死んだ夏 下 創元推理文庫
↑主人公の女性刑事が活躍する、本国ではなかなかに人気が高いらしいシリーズの第二作ということになる作品である。
このシリーズは、当初“季節”の物語という具合に構想したらしく、各作品に“春夏秋冬”の何れかに纏わる題が冠せられ、(“春夏秋冬”の)4作品が発表された後も好評なのでシリーズが継続しているという。本書巻末の解説によれば、最近シリーズの7作目が本国では登場しているらしい。
本作は前作の『冬の生贄』の酷く寒かった冬の後に訪れた、異常なまでに暑くなった夏の出来事が描かれる。主人公は前作同様、地方都市リンショーピンの警察署に勤務する女性刑事、モーリン・フォシュである。前作で13歳と設定されていた娘のトーヴェも本作では14歳になった。
スウェーデンでは、6月から8月は“夏休みシーズン”である。多くの人が“週間”単位の纏まった休暇を取得することが当然化しているのがスウェーデンで、殊に7月は休暇の人が多く、警察署のような恒常的活動が必要な公的機関でさえも、必要最小限の人員で運営されている事態になってしまう。
本作はそんなスウェーデンの7月に展開する物語である…
リンショーピンはうだるような暑さの中に在った。空気が乾燥する夏に森林火災が発生してしまうことが在り、リンショーピン近在ではその森林火災まで発生していた。リンショーピン警察署の刑事達の多くは7月に休暇を取得していて、残っているのはモーリン・フォシュと、何時もコンビを組んでいるゼケことザカリアス・マッティソン、そして上司のスヴェン・シェーマンだけという状態だった。
モーリンは、娘が元夫と共に旅行に出てしまった状況下、暑さの中で寂しい毎日を過ごしていたのだったが、そこに怪事件が発生した。匿名の通報が在り、全裸の少女が公園で保護されると言う騒ぎだ。モーリンやゼケは現場に向かう。暴行を受けたらしく、傷だらけな状態で裸の少女は異様な状態だった…
この騒ぎの他方で、同じような年頃の少女の捜索願が出ていた。ティーンエイジャーに時折見受けられるような家出ではなく、「何らかの事件?」を想わせるものも在った。モーリン、ゼケ、上司のスヴェンという「3人体制」の中で、彼らはうだるような暑さの中で必死の捜査活動を進める…
捜査が進む中、移民系の若者、同性愛者、前科を持つ者、事故で性器を失った男性等、様々な方面に手が伸びる…巷の偏見に晒されがちな人達に対する、そうした見方を助長するかのような捜査活動にモーリンは疑問も抱くが、なかなか増えない手掛かりの中で必死に事件の糸を手繰り続ける…
やがて同一犯によるものと推測される犠牲者の遺体が次々に発見されるに至り、近隣の他所の警察から応援の刑事も招集された。
2人の応援刑事を加えた5人体制で、犯行に手を染めた者の正体を負うが、決定打に欠けた状態が続いた。そうした中、元夫と娘が旅行から元気に帰って来た…
モーリンは、犠牲者が発生した各事件に共通する人物を漸く探り当て、調査を進める…そんな時、身近な所に凶行の魔手が忍び寄った…
“ネタばれ”を避けながら物語を振り返ってみたが、“夏”という状況故に浮かび上がる関係者に気付くまでの長い曲折を経たプロセスと、それに気付いた後の息詰まる対決は読み応えが在った…
「偏見に晒されがちな人達」を一定程度抱え込むようになった社会…そうした中で犯罪捜査に取組む、モーリン、ゼケ、応援の刑事達、更に「移民出身で、国内で最も若くして昇進した」という設定の署長と言った人達の姿が、なかなかに真に迫る…
真に迫る、物語の本筋の中での劇中人物だが、例えばモーリンについては、それに“厚み”を与える“一個人”として深く描き込まれている。極若い時に授かった、難しい年頃に差し掛かった大切な娘との関係…消防隊員である元夫との関係…愛される女で在りたいという想いの他方で仕事に賭ける生き方を選んだという中での孤独…そんなものが、非常に「読ませる」感じだ…
社会性、時代性を織り込んだ物語の中で、等身大の主人公が深く描かれる…本作はかの“マルティン・ベック”や“クルト・ヴァランダー”というような「スウェーデンの刑事モノ」の「佳き伝統」の正当な後継者となっているように思う。今後のシリーズ各作品の登場を楽しみにしたい。
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