↓その“忠臣蔵”に、かの加藤廣が正面から挑んだのがこの作品である…

加藤広/謎手本忠臣蔵 上巻 新潮文庫

加藤広/謎手本忠臣蔵 中巻 新潮文庫

加藤広/謎手本忠臣蔵 下巻 新潮文庫
↑手頃な分量の上・中・下の3冊に分かれた文庫で、なかなか読み易く、愉しく読んでいた間にどんどん進んでしまった…
本作の題名は『仮名手本忠臣蔵』という、“忠臣蔵”物語の定番に引っ掛け、「考えてみると…謎かもしれない…」という部分にスポットを当てようとしたことから『謎手本忠臣蔵』と題したようだ…
加藤廣は、史上の有名な事件等に関して、史実、伝えられていること、有名な創作を通じて知られていることなどの“隙間”を巧みに動き回って、「本当はこういうことだったのかもしれない…」という、なかなかに興味深い物語を綴る作家なのだが…この忠臣蔵も、そうした例に漏れない…
「事の起こり」というようなことになる「内匠頭が吉良上野介に斬り掛かった」という一件だが、実は「何故?」ということが判然としない。判らないままに内匠頭は騒ぎを起こしてしまい、判らない間に切腹ということになってしまい、御家取り潰しに至ってしまっている…
本作に登場する大石内蔵助は、この「何故?」を訝る…そして手を尽くして調べ、やがて行動するのである…
本作は大石内蔵助を中心とする物語であるが、他方に同時代の目立った政治家である柳沢吉保(途中までは保明という名だった…)も“主要キャスト”である。この柳沢吉保も、内匠頭の行動の「何故?」を訝る…もしかすると、本作は柳沢吉保の方が、大石内蔵助よりも“重い”役割を担っているかもしれない…
“柳沢吉保”と言えば…“側用人”という「将軍の秘書官」というようなイメージの位置に居て、同時に“大老格”というようなことで活躍したことから、何か「阿諛追従の徒」というような「ネガティヴなイメージ」も在るのかもしれないが、実は通貨のことや暦のことなど、当時はなかなかに難しかった問題の解決に奔走し、功績を確り挙げている人物である…本作では「一途に仕事をする能吏」であり、配下の忍び―出て来る忍びの頭領が渋い…―を駆使して情報収集、情勢把握になかなかのエネルギーを注ぎながら、「幕府の裏方」に徹する男として描かれている…意外に渋い!!
「“忠臣蔵”の時代」というのは、或いは後世の我々が思い浮かべるような「江戸時代の“武士”的価値観」や「仕事の進め方」というようなものが一定程度確立していたと見受けられる時代である。そういう中であるからこそ、かの内匠頭の“衝動的”な行動は、漠然と思う以上に「衝撃的!!」なのであり、大石内蔵助のような家中で重きを為す立場に在れば「何故だ!?何故なのか判らなければ、自分の人生はそこから一歩も先に進められない…」というようなことになるのであろう…
本作では「御家取り潰し」という事態になった後の“後始末”の様子が、なかなかにリアルで、何か非常に興味深い…金銭の始末に関しては生々しい…そういう話しや、“討ち入り”に至るまでの大石内蔵助と主立った人達の関係、或いは「幕府の裏方」を自認している柳沢吉保が「如何に騒動を収めるか?」で巡らせる考察という部分が、実に生き生きしていて分量も多い…他方…実際に淡々としたものだったらしいが、討ち入りの戦闘はアッサリした感じだ…それ以上に、赤穂浪士が泉岳寺へ向かう様子がなかなかに面白い…
余り内容に触れてしまうと、未読の皆さんのお楽しみを妨げるのでこの位とするが…本作は「御馴染みの物語」から“好い意味”で飛躍した、独特な味付けになっていて愉しい!!
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