『ファイアーウォール』

あの“刑事クルト・ヴァランダー”のシリーズから、新しい翻訳が登場した!!

↓次々と起こる事件が意外な接点を持ち、それが徐々に明らかになっていくという「あの」展開…生々しいまでに「悩める中年男」として人間臭く描かれる主人公…何もかも健在だ!!

ファイアーウォール 上


ファイアーウォール 下

本作は1998年頃に登場した作品である。所謂“IT化”が本格化、加速し始める頃というような時代だ…ヴァランダーの勤める、スウェーデン南部のスコーネ地方に在るイースタ警察署でも、コンピュータやネットの得意な者、その限りでもない者が居る…

イースタ署ではタクシー運転手への暴行の容疑者の取調が始まっていた。タクシー運転手をハンマーで殴り、ナイフで刺してしまったという事件の容疑者は19歳女性と14歳少女の2人組である。「金欲しさ」という犯行動機の自供が在るというが、その日の仕事を始めたばかりの運転手から奪うことが出来た金は600クローネ(7千円程度)という額に過ぎず、何か理解出来ない…

他方、市内のATMの前で「ITコンサルタント」であるという男性が遺体で発見された。他殺が疑われたが、どうやら“自然死”らしい。ところが、「健康な人なので、信じ難い…」という話しが入って来る…

そこに“不祥事”が続々と出来する…

母親立会いでヴァランダーが取調をしていた14歳の少女が、母親を罵って殴り掛かったので、ヴァランダーは割って入り、少女を平手打ちしてしまった…そしてそれが、偶々紛れ込んだ記者に写真を撮られ、「少女を殴った警察官」として報道されてしまう…

更に…もう一人の容疑者、19歳女性は警察署から抜け出し、行方を晦ませてしまった…“脱走”である…

脱走してしまった容疑者を必死に探すが、彼女は意外な型で発見された…やがて、彼女が殺害したタクシー運転手の周辺、ATMの前で急死した男の周辺を調べると意外な事実が次々に明らかになり、そこに「恐るべき企て」の存在が見え隠れする…

ヴァランダー達は手探りで、この複雑な事件に挑む…ヴァランダー自身も、陰謀の中に知らずに取り込まれてしまう…

“ファイアーウォール”とは、コンピュータの用語で“防壁”ということだが…この作品では他の意味合いでも用いられているような感じがする…

作中では、変電所に問題が発生して広域停電が発生する場面も盛り込まれている…完成されていて、安定した世界の「意外な程の脆さ」に対して警鐘が鳴らされている…更に…不可解な若者と向き合うヴァランダーを通じて、若い世代が酷く不安定な状況に置かれてしまっていることに懸念が示される…

“地方”の“小さな街”ながらも、驚くべき広がりの在る事件が発生し、怪事件も発生する…“イースタ”という小さな街の警察署が扱う事件を通じ、「揺れる世相」を見詰める作者の想いが綴られる…“ヴァランダー”はそんな作品だ…

今回は作品の中で、「過去作品の後日談」、或いはそれらの作品で扱われた事件の回想的な描写も入っているのだが、シリーズのファンとしてはその辺も面白い。

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