
墨染の鎧 上

墨染の鎧 下
↑そして、大変愉しく読了したところである…
火坂雅志による戦国時代を扱った時代モノは、「“主役”の選び方」が多少変わっているかもしれない。多くの作品が存在する人物を主人公に据えているものも見受けられるが、多くは彼の作品以外では、劇中に登場することは在っても、“主役”に据えられてはいない…
この『墨染の鎧』もそうした、「多くの作品の劇中に登場しているが、“主役”になっていた例は思い当たらない」という人物である“安国寺恵瓊”(あんこくじえけい)が主人公に据えられている。
安国寺恵瓊という人物は、戦国時代の末期に毛利家に仕えていた人物である。“使僧”などと言われるが、毛利家の外交を担っていた禅僧である。当時の禅僧は、“五山文学”というような表現が示すように、広い知識を有する文化人で、同時に“僧”というのは「俗界とは別」ということで、色々な場所に出入し易い面が在って、各地の大名達が顧問、相談役的に随分と利用していたようである。安国寺恵瓊は京都の五山の一つである東福寺に縁の禅僧である。安芸の安国寺で僧侶としてのキャリアをスタートさせていて、安国寺の住持ということになったことから、終生「(安芸)安国寺の」と名乗っていたようである。
安国寺恵瓊は、豊富秀吉にも重用されていて、僧侶でありながら大名としての知行まで与えられていた。やがて関ヶ原合戦では、敗れた西軍の“首謀者”ということになり、石田三成と共に処刑されてしまった。処刑されたことに加え、毛利一門が生き残りを賭けての政治的闘争状況の中で「あの者の一存で…」と“ワル者”にしてしまったということも在ったようで、この人物に関して伝えているものが存外少ないという一面も在る…
この種の、大きな勢力の狭間で色々な交渉事に携わって活躍したというようなタイプの人物…火坂雅志が綴る物語ではよく出て来る。彼が“得意”なタイプの“主役”と大変期待して読んだが、期待は裏切られなかった!!
火坂雅志作品は、最初の辺りになかなかに印象的な場面が出て来る。今回も、安芸武田氏の銀山城(かなやまじょう)が落城する場面から始まる。落城の危機が迫る中、城主は妻子を逃がそうとするが、妻は残り、家臣の背に負われて子が脱出する。家臣は城を攻めている毛利兵と闘って討死を遂げるが、渡し舟の老人が子を抱えて舟で脱出する…
やがて…「安芸武田氏の遺児」とも言われる僧、恵瓊が登場する…安芸安国寺に居た恵瓊は師に見出され、京の東福寺に出て修行することになる。やがて師の後任として毛利の使僧になる。
“使僧”としては若輩ということになる恵瓊は、自らの足で諸国を巡り、時代の動きを知ろうとする。そうした活動の中で、色々な冒険も在る…やがて信長や秀吉という人物を視て、信長の“高転び”を予見し、秀吉が後継者であろうと見極める。この辺りでのお話しだが…これがなかなかに面白い。若い頃の“冒険”が伏線のようになっている…
全編を通じて、謎めいた麗人、小督との挿話が在るのだが、関ヶ原合戦を前に恵瓊は小督に思いも掛けないことを打ち明ける…「そう来るか…」と思わずにやりとしてしまったが…
直接に軍勢を率いて戦場を駆ける訳でもない恵瓊の“闘い”の物語…なかなかに読ませてくれる…
追伸
↓安国寺恵瓊については、こちらもなかなか面白い!!
>>『戦国の交渉人 外交僧・安国寺恵瓊の知られざる生涯』
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