『剣豪将軍義輝』

過日『三好長慶』を読了し、「“応仁の乱”以降の混迷の経過」というようなものに興味を抱いた。三好長慶は、室町幕府の管領であった細川家を支える三好家の出であったが、やがては将軍を傀儡化してしまっていた管領を傀儡としてしまう。そして三好長慶が掴んだ権勢も、野心家の家臣であった松永弾正に蚕食されてしまう…

こういう物語に触れていて、彼らが関りを持った将軍の一人である足利義輝を主人公に据えた小説が在ったことを思い出した…

↓この作品である…

剣豪将軍義輝 上 鳳雛ノ太刀


剣豪将軍義輝 中 孤雲ノ太刀


剣豪将軍義輝 下 流星ノ太刀
↑見事な時代物エンターテイメントだ!!一気に読了した!!

足利義輝…“将軍”なのだから「史上のビッグネーム」とも言えるかもしれないが、他方で決して知名度は高くない…そして、彼は「悲運な人物」という側面も持っている…

作者はこの「知られざるビッグネーム」とでも呼ぶべく足利義輝を主人公に据え、虚実入交じった壮大なエンターテイメントを仕上げてしまっている。素晴らしい!!

本作は12歳で将軍に据えられた義輝(最初は“義藤”という名で、19歳の頃に改名している…)が初めて体験した合戦の顛末から始まり、非業の最期を遂げるまでの一代記になっている。

上巻は、義輝と改名する辺りまでの話しである。厳しくも優しかった、深く慕っていた侍女のお玉の想い出を胸に、将軍として胸を張って生きようとしていた少年義藤であったが、己の非力さを思い知る羽目に陥り、一流の武芸を身に着けたいと思うようになる。やがて、手近に仕えるようになった下女に好意を抱くが、彼女が遊郭を営む男に連れ去られてしまった。丁度その頃、少年将軍を見守る老将は嫡男を兵法指南役に就任させることとしていて、指南役の嫡男がやって来ることとなっていた。しかし、嫡男の鯉九郎は少年将軍など「碌なものではないであろう…」と御所の入口まで来ていながら、京の町へふらりと行ってしまう…やがて、遊郭に近習の興一郎を一人だけ連れた義藤が姿を現す。下女を取り返そうと乗り込んで来たのである。鯉九郎は少年義藤の必死な姿に打たれ、自らの技能や知識を伝え、更に敬意を持って仕えるべく将軍であると思うようになる…

中巻は少し年月が経ち、鯉九郎の指導で剣術の実力も備えるようになった義輝が、「京を追われて隠棲中」という情勢を利用し、密かに修行の旅をするという物語である。戦国時代を彩った様々な人達との出逢いが在る…

下巻は、義輝が将軍として乱世を収拾して行こうという想いを胸に行動する物語であり、三好一門を操る松永弾正―これが凄い“悪役”ぶりだ…―との暗闘が繰り広げられる…

かなり簡略に、3巻のあらすじをなぞった…主人公の義輝自身を含む剣客達の闘い、複雑な情勢下での謀略合戦や、暗躍する忍者達の闘い、或いはロマンスと隅々まで愉しませてくれる趣向に満ちている…

本作の義輝は、自らも厳しい剣術修行を己に課した求道者で、それの故に多くの人を魅了するものを備えた貴人となった人物として描かれている。「或いは、もう少し存命であれば“歴史”は?」と思わせてくれるものがある…他方、本作はそういう余計な考えを吹き飛ばす“力”の篭った、愉しい物語である。義輝は非業の最期を遂げてしまうが、終幕は決して陰鬱ではない…

「三巻」と言えば“大長編”の類かもしれないが、一気に読める…お奨めだ!!

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