『眩暈』

東直己作品の文庫本で未読のものを見掛けると、入手して読むようにしている。読んでみて、期待が裏切られるということは無い…

↓最近、また文庫で東直己作品が登場した!!



眩暈


私立探偵の畝原が活躍するシリーズである…物語の舞台は札幌である。

冒頭の方は、畝原が請負った、大学学長による講演会の警備の顛末が描かれる。「脅迫を受けた」という大学の学長が、畝原に接触して講演会の警備を依頼した。「一人でやってくれれば、それで構わない」というような話しであったが、畝原は不測の事態に備え、半ば“助手”のようになっている貴と一緒に現場に入る。

その講演会警備が妙な経過で終始した後、畝原は馴染みの店を梯子して呑み、タクシーに乗って帰宅しようとした。タクシーが或るマンションの辺りを通過した時、壁の辺りに小学校低学年程度と見受けられる少女が居たことに気付いた。不審な様子を感じ取った畝原は、運転手と話し合って見掛けた辺りに引き返すのだが、少女の姿は見当たらなかった。畝原は状況が非常に気懸りだったので警察に通報し、刑事に事情を話してから帰宅した。

翌朝、畝原は驚愕した。小学校低学年位と見受けられる少女の、どうも他殺らしい遺体が発見されたというテレビニュースを視たのだ。やがて、夜遅くの通報の件との関連で警察から連絡が入り、畝原は遺体が安置されている病院へ向かった。病院には前夜のタクシー運転手も現れ、2人は遺体が昨夜見掛けた少女であることを確認した。運転手は幼い少女の死にかなり衝撃を受けていた様子であったが、畝原自身も、「もう少し早く、少女を保護するように動いていれば…」という想いを強く抱いた。

畝原は、或る種の“責任”を感じ、独自に少女の一件を調べるべく動き始める。そうしていると、第二の事件が発生し、更に「札幌に連続殺人犯が…」という妙な噂が在ることも判る。畝原は事件の真相を探り出すことが出来るのか?そして、彼が見出すものは何なのか?

というようなことだが、未読の方のお愉しみを妨げないために、これ以上の仔細は敢えて綴らない…題名の“眩暈”…なかなかに意味深長かもしれない…

今回の作品では、何か作者が“畝原”という劇中人物の言を借りて、「50代の親父世代から、20代以下の娘や息子の世代に伝えてみたいこと」を纏めているような感もした。最近は「世の中がおかしくなった」と嘆くようなことが多いが、それは妙な事件が精力的に伝えられるようになってしまっているに過ぎず、実は昔から方々で妙な事件というものは起こっている。だから、必要以上に世の中を悲観せず、若い人達は明日へ向かって踏み出して欲しい…というような主張が在ると思った。

上記のメッセージだが…「情報の発信と巷の反応」というものが、本作で描かれる事件の“鍵”のようにもなっている。実際、読んでいて「意外!?」と多少驚いた面さえ在る展開だった。

畝原シリーズは、少し重厚な雰囲気なのが、何となく気に入っている。“ススキノ探偵”シリーズも映画化されているが、或いはこの“探偵・畝原”のシリーズについても映像化が在っても善いかもしれない…

本作は長く続くシリーズの中の一冊だが、このシリーズは各々を独立の作品として楽しめるような造りである。お薦めなシリーズだ!!

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック