そうした「異能のスペシャリスト」とでも呼ぶべき人達を主人公に据えた小説を色々と出しているのが火坂雅志であると思う。各々になかなか愉しいので、各作品を愉しく読了しているところだ。
↓また愉しい火坂雅志作品に出逢った!!
全宗
火坂雅志の他の作品で、徳川家康の近くに在った金地院崇伝、織田信長の近くに在った今井宗久や沢彦という人物が取上げられているが、施薬院全宗(やくいんぜんそう)または徳運軒(とくうんけん)とは豊臣秀吉の近くに在った人物である。
全宗は比叡山の僧で、薬を処方して布施を受けていたという薬樹院の主で薬学に明るかったが、かの“比叡山焼討”の後に京に出て還俗し、医師に転じたという人物である。後年、彼は古巣の比叡山の復興にも携わった…「長く医学に携わった一族の末」という触れ込みだったようだが、近江の甲賀辺りの出身で、出自はよく判らないらしい…
火坂雅志は、この「よく判らないらしい」辺りを巧みに造形する…本作の全宗は「甲賀の“抜け忍”」なのである!!
甲賀忍者…彼らは、行動中の負傷や身体の不調に対応すべく、更に暗殺等に用いる場合も在るので、薬草などの薬物の知識に通じていたという。こういう知識は、親から子、師匠から弟子と伝授される…
本作の全宗は、甲賀忍者であったのでそういう薬物のことを詳しく学んで知っていた…という設定だ…そして彼は甲賀忍者以外の世界で生きたいと願うようになったが、それを許さない甲賀側と争うことになり、結局比叡山に入って僧侶になった…
というような生い立ちの全宗は、医学の世界で身を立てることを目指し、京で勢いのあった医師、曲直瀬道三の門下に入るようになった。他方で、京の奉行を務めていた秀吉に接近する…
敵方の懐深くに刺さり込んで重要機密を探るという“忍者”という背景故に出来たような行動や、医師として“大物”の近辺に居たが故に携わった案件というのも在るのだが…全宗は秀吉に「仕える医師」という範囲を踏み出し、「様々な案件の相談役」という活動もするようになっていく…
何となく…“悪役”風な劇中人物ーこういうのが意外に好きだったりする…―という雰囲気の全宗の、やや強引に世の中を渡って栄達を図る様…痛快である!!本作は「伝えられている“史実”の“裏”」を推理して組み立てるような面白さと、「密かに凄腕」という異色の主人公が活躍する活劇的な面白さが巧みに組み合わされていて、思わず夢中になる!!
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