『空白の桶狭間』

幾つかの作品が気に入ると、その作家の作品には自然と眼が向くようになる…

加藤廣に関しては、信長の死を巡る3部作が在り、その文庫本を全て読了した。そして、それが非常に興味深かった…

↓その加藤廣による作品の文庫本が登場した。

空白の桶狭間

タイトルの通り、本作は“桶狭間”を巡る物語である…

「桶狭間の合戦」と聞けば…今川勢の尾張侵入の情報にもなかなか動かなかった風雲児・信長が、突如として支度を始めて愛馬に跨って駆け出し、後を追う家臣達が居て、神社に集合して必勝祈願をし、そのまま風雨が激しくなる中を駆け抜け、桶狭間で休憩中に雨に降られてゴチャゴチャしている今川義元の陣営の近くの小高い場所に集まり、「狙うは義元が首一つ!!」と信長以下の一団が勢い良く突入し、迎撃態勢に無い今川勢をアッサリと蹴散らして、勢いのままに義元を討ってしまう…細かい演出は色々と派生型が在ると思うが、何となくそういう様子を思い浮かべてしまう…

しかし…この何となく思い浮かんでしまう、良く知られた“伝説”だが…色々と考えてみると…「如何にも伝説」という感じがしないでもない…「2万を超える大軍団が悠然と街道を進む」というような場合、桶狭間のような場所に総大将の義元が寄らなければならない理由は…寧ろ見当たらない…ドラマや映画の義元は、何か“お公家さん趣味”で、戦は得意でもないような描かれ方をすることが在るように思えるが、「谷間のような地形の場所に、無理に軍勢を通さない」というような、当時の用兵の常識位は承知していた筈で、桶狭間に居たこと事態が妙だ…そして、京を目指して大軍が進むのであれば、本隊が通ることになる街道ばかりではなく、人馬が通る主な場所に、それこそ「そんな場所まで?」とくどい位な範囲に“偵察隊”を配置して、義元の本隊を襲撃する動き、その可能性が認められるあらゆる事象に警戒していた筈だ。僅かでも常態と異なると見受けられるものが在れば、それは見逃され難い筈で、織田勢は「息を潜める」ような状況に押さえ込まれていたかもしれない…だから、信長以下の一団が密かに義元の陣に近寄る前に、「織田勢が何やら動き出した!!」と伝令が全力で走り、義元自身か幕僚格の重臣達に情報が入り、襲撃への警戒態勢が取られる筈だ…

そういう、一寸考えると思い浮かぶことに関して、本作は「実はこういうことであったのではないか?」という、非常に見事な回答案を示してくれる。正しく、謀略に対する謀略、そして更にそれに対する謀略という具合に、刀や槍を交える以外の凄まじい競合いが、あの“伝説”となっている戦いの裏にあったのではないかとするのが本作だ…

実は本作は、加藤廣による信長の死を巡る3部作の中で既に言及されている“桶狭間”に関して、かなり肉付けをしたような感の作品なのだが、これがなかなかに興味深い大胆なものに仕上がっている。

本作は、「ネタばれ大迷惑!!」な感じであると思われるので、これ以上は内容に言及しない。“伝説”の裏の「真実?」を、是非本書でお楽しみ頂きたい!!

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