『探偵はバーにいる』

↓「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズの最初の作品である…

探偵はバーにいる

シリーズ第2作ということになる、映画化の原案ともなっている『バーにかかってきた電話』で“シリーズ”に出逢い、東直己作品を色々と読んだ…

>ブック/東直己 作品

彼は各作品で“世界”をどんどん深め、広めているのだが、それら全ての出発点がこの探偵はバーにいるである…

ちょっと昔、風俗営業法が変わる前、「ソープランド」が「トルコ」と呼ばれ、エイズがアメリカのホモだけが罹る原因不明の奇病だった頃、俺はススキノでぶらぶらしていた。

↑シリーズのファンにはお馴染みかもしれない、探偵はバーにいるの冒頭の一文である…

「風俗営業法が変わる前」というが、ここで言及される法改正は1984年頃のことのようだ…その辺りの時代が設定されている。作品が世に出たのは1992年なので、文字通り「ちょっと昔」ということになる…

この「ちょっと昔」を振り返るスタイルは4作目の『探偵はひとりぼっち』まで踏襲される…そして“番外編”的な『残光』を挟み、十数年を経た“俺”が出て来る『探偵は吹雪の果てに』になり、以降の“俺”は毎作品年齢を重ね、時代も変わっている…

そういうことだが…独特な価値観の下に、世の中や人々から微妙な距離を置いて眺め、飄然と行動する“俺”は結局“第1作”から変わっていないということが、2作目から最近作まで、加えて“前日譚”に至るまでを全て読了した後に“第1作”を読むということをしてみて、非常によく判った…

本作であるが…“俺”は結局、四半世紀程度を経ても変わらない行動パターンで、方々の店に顔を出してぶらぶらとしているが、バー“ケラー”を連絡先にしている…

その“ケラー”に居た“俺”を訪ねて来たのは、大学の後輩にあたる男であった。学生の彼は、半同棲の彼女が全然帰らず、連絡も取れない状態であることを心配し、研究室で「ススキノで探偵をしているらしい」と噂の“俺”を訪ねて来たのだった…

“俺”はハッキリ断ることも出来ず、後輩の彼女を探そうとする…そこで妙に気になる事件にぶつかる…

ということで、ススキノや札幌を舞台にした物語が進む…最近作に比べると、襲撃を受けたり、少年達と戦う羽目になったりというような場面も多い…また、最近作のキーマンとなった、飲み友達の“モンロー”や、大学の先生であった“西田”も事件の鍵になる人物として登場している…

非常に愉しいシリーズなので、この“俺”のシリーズは広くお奨めしたい…実際…近所の“W”で時々出逢う青年にこのシリーズの話しをしたところ…彼は「出張での移動のお供に」と『バーにかかってきた電話』を入手するに至ったようだ…こういう話しは一寸嬉しい…

本作は、解説めいたようなくどい話しが排された、「“俺”の一人称の語り」が基本なのだが、そういう型で綴られる街は「同時代の現地を或る程度知っている」目線で視てもリアルな感じで、出会う作中人物達の描写も活き活きとしている…

「俺はススキノでぶらぶらしていた」というような時代…実は私も札幌に住んでいた…それを考えると、私は何処かで“俺”と擦れ違っていたかもしれないなどと思う…そう想わせるのも、「思い切り虚構的」である雰囲気と「リアルさ」が同居した、不思議な文章の御蔭であろう…

兎に角愉しい作品だ!!!

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