↓シリーズの第5作である!!
目くらましの道 上
目くらましの道 下
↑“映像化”の際には、真っ先に原案にされる、シリーズ中でもなかなか人気が高い作品である!!
本作の“目くらまし”というタイトルだが、読む前には「?」だった。が、読後には納得であった。ヴァランダー警部達に降り掛かる事件が複雑に展開し、色々な“目くらまし”が在り、捜査は「行きつ、戻りつ」を繰り返し、文字どおりに「進むべき道」が“目くらまし”にやられてしまうのだから…
物語は6月後半から7月前半のスウェーデン南部、スコーネ地方を舞台に展開する。この時季は、スコーネ地方が「最も美しい」と言われる時季である。作中では好天にも恵まれる…ヴァランダー警部の仲間の一人等は、強い陽射しで日焼けが酷くなり、途中から妙な帽子を被って登場してみたりする程だ…
前作の『笑う男』から数ヶ月後で、折しもサッカーのワールドカップが開催中で、スウェーデンは自国チームの戦いぶりに一喜一憂する人々が満ちていた…(1994年の米国大会―所謂“ドーハの悲劇”で日本チームが出場を逃した…―であろう…試合が催される、米国の地名は作中には出ない…)
ヴァランダー警部は、「盗難車の密輸出」―スウェーデンの港町から、東欧方面に盗難車が送られるということが、組織的に行われていた、或いは行われてる経過はフィクションには止まらないようだ…本作では詳述されていないが…―という事件の調査を地道に続けていたが、7月前半から予定している休暇を心待ちにしながら日々を過している。シリーズの各作品で御馴染みのビュルク署長がマルメ―スコーネ地方最大の都市。作中でも結構頻繁に出て来る…―へ栄転することになり、イースタ署での“送り出す集い”も愉しく終了した…
そんな日の夕刻、菜の花畑を営む老人からの電話が署に入った。「不審な女が朝から菜の花畑に居て、動かないので困っている」という話しだった…交通事故の処理等でパトロール要員が出払っていたことで、ヴァランダー警部は自ら問題の菜の花畑を訪ねることにした…
ヴァランダー警部は「不審な女が朝から菜の花畑に居て、動かないので困っている」という話しを聴き、「寧ろ老人に問題が?福祉局に連絡するべきか?」という印象さえ抱くのだったが、老人が言う“不審な女”は間違いなく菜の花畑に居た…
ヴァランダー警部は、女から事情を聴こうと畑に踏み入る。近付いてみれば、外国人風の“少女”という年齢と思われる女だった。何か非常に怯えている様子だった。「警察の者だが…」と声を掛けると、女は手にした容器に入っていた液体を身体に掛け始めた。そして…少女は、いきなり松明のように燃えてしまった…
「眼前で焼身自殺…」という酷い目―永く夢に見そうで、多分誰も経験したくないことであろう…―に遭ってしまったヴァランダー警部だったが、彼は寧ろ「未成年の外国人らしい人間の自殺」という事態に“静かな憤り”のようなものを覚え、“不明”であった彼女の身元を明かし、彼女を自殺に追いやった事態を探ろうとする…
そうしていた矢先、ヴァランダー警部は更にとんでもないことを知らされる。イースタ署管内の海岸にある家で悠然と暮らしていた、引退した政治家で元法務大臣という人物が遺体で発見されたとの報だった…しかも、遺体は「頭の皮が剥がされる」という無残な状態だったのだ…
ということで、ヴァランダー警部達が「出来れば知りたくなかったことを確実に知るに至る」までの物語が展開する…
「誰かの行い」を他者に伝えようとする場合、“誰が”、“何時”、“何処で”、“どのように”事を行ったのか、そしてそれが“何故なのか”が綴られて初めて「事の全体像」が伝わるのだと思う。
「ミステリーの中の犯行」のようなものは、“誰が”、“何時”、“何処で”、“どのように”事を行ったのかについて「少しバラバラ」に示される。そして、それは「事の全体像」を明らかにしようとする、本作で言えばヴァランダー警部達のような、作中の捜査陣よりも一部で読者が「先回り」してしまう面が在る。しかし“何故なのか”に関しては、作中の捜査陣と読者とが「同着」か、前者が少し「先回り」という場合が殆どのような気がする。
本作は、そういう「ミステリーを読む場合の思考の流れ」を踏まえながら、随所に“目くらまし”を忍ばせた綴られ方が為されているようにも見受けられる面が在るかもしれない…
「最も美しい」と言われる季節で、休暇を満喫する人々が居たり、スポーツイベントを愉しむ人々も居るという、実に華やいだ雰囲気の中で、“恐るべき犯人”による“凶行”はなかなか止まらない…事件には、地理的な拡がり―本の最初の方に、舞台となる地域の街が記された地図が在る…―も加わって、ヴァランダー警部ら捜査陣は翻弄される…また、色々と悩みながらも、“凶行”を止めようと力を尽くし、今回は「捜査をガンガン仕切る」という感じのヴァランダー警部が凄くカッコウ良い!!ページを繰り始めると止められなくなってしまう…
本作は「出来れば知りたくなかったことを確実に知るに至る」までの“本筋”も面白いが、ヴァランダー警部周辺のことを扱うような“脇筋”も面白い。警察官になって以来、関係がギクシャクしていた父との関係に変化が起き、「例によって」という雰囲気も在るが、父が一寸した騒動を起こしてしまう場面も在る…前作で登場した新人刑事との間では、嘗ての“自分対良き先輩”(先輩のリードベリは他界しているが、ヴァランダーはそれなりの頻度で、彼の言葉を思い起こしている…)の関係のようなものを見出すようになる…
本作の最末尾に在る“訳者解説”だが、なかなかお得だ…ヴァランダー警部シリーズの刑事達に関する小事典が在る!!
本作は、“凶行”を繰り返す犯人と捜査陣の対決の他方、冒頭の方に出て来る「外国人少女の自殺」が示すような、「相対的に貧しい国の人々が、相対的に豊かな国の悪しき者に踏み躙られる」可能性が拡がっている状況を告発するような一面も持ち合わせている…こうした、「地方都市が“世界”と、思わぬ型で交差する」という“時代”が描かれるのも、ヴァランダー警部シリーズの魅力の一つであろう…
もし「“ヴァランダー”?シリーズだって?どれが一番?」とでも問う方が在るなら…私は本作を推したい!!
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