『笑う男』

最近、“クルト・ヴァランダー”を「身近な存在」というように感じている。小説の作中人物として、私の中でかなり“お馴染”になってきたのだ。

彼は地方の小さな警察署に勤めるベテラン刑事で、傍目には寧ろ「冴えないおじさん」である。そんな彼が、なかなか想定し難いような拡がりや深まりを見せる事件に出くわし、経験と独自のカンで事件を調査し、時には身体を張って奮戦する…

このところ『リガの犬たち』『白い雌ライオン』と立て続けにヴァランダー警部が活躍する作品を読了した…そして“クルト・ヴァランダー”が妙に気に入っている…

↓更にクルト・ヴァランダーの足跡を追うべく、また入手した…

笑う男
↑本作は、シリーズの第4作である。第3作だった『白い雌ライオン』の一件の後の物語ということになる。

物語の舞台となっているのは、11月から12月のスウェーデン南部、スコーネ地方である。

『白い雌ライオン』の事件では、ヴァランダー警部に余りにも多くの災厄―どのようなものなのかについては、是非『白い雌ライオン』を御覧頂きたい…―が降り掛かった。

ヴァランダー警部は、深い心の傷を受けることとなってしまったのだ。そのために心身のバランスが崩れてしまった。そして彼は“病気休暇”に入っていた…

『白い雌ライオン』の事件から一年以上、概ね一年半がが経った…

ヴァランダー警部はデンマークの海辺の小さな町に在る宿屋に滞在していて、毎日オフシーズンで人が少ない海岸を散策するなどして過ごしていた。

ヴァランダーの心身は快復しつつ在ったが、ヴァランダーは警察を退職する意思を固めていた。そのヴァランダーの眼の前に、友人の弁護士が突如現れた。

何処に居るのかを他人には伝えていなかったヴァランダーは、友人の弁護士の登場を訝しがるが、彼はヴァランダーの姉と連絡を取ったのだという。「何としても会おう」としていたことが判った…

弁護士は、友人であり、警察官でもあるヴァランダーに、切々と協力を要請した。

要請の内容は、「交通事故で死亡」ということになった、同じく弁護士をやっている彼の父親の死に、不審な点が在るために調べて欲しい、ということだった…

話しを聴いたヴァランダーは、実は警察を退くつもりである旨を友人に告げ、「力にはなれない」ということで別れていた。

やがてヴァランダーは、正式な退職手続を行うため、イースタに帰還した。友人が訪ねて来てから程なくであった…

そこでヴァランダーは新聞を眺めて気付いた。デンマークの海岸に訪ねて来た友人の死亡が伝えられていたのである。気になって死亡の経過を訊ねてみれば、事務所の部屋で、射殺体となって見付かったのだという。“他殺”である…

ヴァランダー警部はそこで考えた。デンマークの海岸に訪ねて来た友人の一件を捜査しなければならないと…そして彼は退職を撤回し、長くなっていた病気休暇からの復職の手続をした…

という訳で、突如現場復帰をしたヴァランダー警部が、弁護士の射殺事件の捜査に参加し、物語が進展する。

弁護士は何故射殺されたのか?“交通事故”ということになっていた、父親の老弁護士の身には何が起こっていたのか?という出発点から、事件は思わぬ拡がりや深まりを見せて行く…ヴァランダーも危険な目に遭ってしまう…

本作では、イースタ警察署の仲間として、新しい作中人物が登場する。新人の女性刑事である。警察学校では非常に優秀だったという評判だが、実際はどうなのかは未だ判らない。ヴァランダーは彼女と一緒に捜査活動を展開する場面も在る…これも本作の興味深い部分になっているかもしれない。

ヴァランダーのシリーズは、本国では90年代に「概ね年1冊」という具合に上梓されていた。作中のヴァランダーも、作品が出る都度に作中で年齢を重ねて行くことになっている。40代から50代に向かって行く彼の様が描かれていることになる。

作中に時々出て来ることがある。ヴァランダーの「もう少々で50代に手が届こうかという世代の男としての想い」のようなものが吐露されている。

彼の少年時代は50年代から60年代ということになる。言ってみれば,スウェーデンも高度成長の時代だった。そして彼は、70年代から社会に出ている。高度成長に若干の陰りも見え隠れし、社会が変容していった中で、警察官の仕事を続ける。そして勤続20年以上になって、世の中の何もかもが随分と変わってしまい、自分や同世代とは全く異なる経験をしている若い世代の、多少異なる考え方や行動の台頭というものに想いを向ける…

何か、“子ども”でもなく“老人”でもない、と言って“若者”でもない世代の、社会の中で「宙吊りになっているような落ち着かなさ」というようなことなのかもしれない…

最近思うのだが、私自身が現在より更に若い時点で本作に出逢っていたなら…現在ほどクルト・ヴァランダーに惹かれなかったのかもしれない…

私自身、社会に出ることになった際、漫然と考えた…社会に出た時点で、「自分より旧い世代の考え方の“最後尾”に立つことも、自分より若い世代の考え方の“最先頭”に立つことも出来る訳だ…」などとである。そこから、“ヴァランダー”よりは少々短いものの、或る程度の長さで社会人をやっていて、今もって…「自分より旧い世代の考え方の“最後尾”に立っているのか?自分より若い世代の考え方の“最先頭”に立っているのか?」は判らず、「宙吊りになっているような落ち着かなさ」は年々募っているような気がしないでもない…

何となく「ヴァランダーと多少シンクロするかもしれない想い」を抱きながら、かなり単純に愉しんで読んでいるのだが、この作品も凄く愉しく読了出来た…

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