『催眠』

ミステリーの中には、「小説こそ面白い」というタイプと、「映画やドラマにすると良いかもしれない」というタイプとが在るような気がしているのだが…

↓今回読んでみたのは、多分後者であろう…実際、“映画化”という話しが持ち上がっているらしいが…

催眠 上


催眠 下
↑逆に言えば「アッサリし過ぎて物足りない」ということにもなるのかもしれないが、「スッキリした構成」であり、個人的には好きだ…

本作はスウェーデンの作品である。“ラーシュ・ケプレル”という筆名以外はプロフィールを明かさずに、一定の評価を得ている作家が出した作品で、既に“シリーズ第2作”も完成しているのだという。下巻の末尾に在る解説によれば、計8作程度が構想されているそうだ…

“周辺事項”から始めてしまったが、物語である…

舞台は12月のストックホルムだ…あの暗い時間が長い、氷点下の気温の場合も在り、多少の積雪が見受けられることもあるストックホルムだ…

“催眠セラピー”を手掛けた経験の在るエリック・マリア・バルク医師が夜中に呼ばれて病院へ向かう辺りから物語が始まる…暗い街を、カーオーディオでマイルス・デイヴィス作品を鳴らしながら病院へ向かうというような渋い描写が出てくる…

エリック・マリア・バルク医師が呼ばれたのは、重傷で病院に収容された少年から、“催眠セラピー”の手法を駆使してでも証言を得たいという事情からだった…

この少年は、“一家惨殺事件”の生き残りだった…少年の父親が公園で惨殺されていた。身元が判明したため、警察官が家族に事態を伝えようと自宅を訪ねたところ、少年の母親と妹が遺体で見付かり、更に死んでいると思えたような状態で少年が発見されたのである…

この一家には、成人していて家を離れている長女が居た。ヨーナ・リンナ警部は、犯人が残った長女を襲うことを危惧し、どんな手段に訴えてでも、犯人を目撃している可能性が高い少年からの証言を得ようと考えたのである…

ということだったのだが…事件はエリック・マリア・バルク医師の一家を巻き込んだ意外な展開を見せる…本作はその顛末を追った作品ということになる…

本作の主人公だが、何か“ダブル主役”という感じである…

一方の主人公はヨーナ・リンナ警部である。スウェーデンには、各々の管轄区域で活動する警察の他に“国家警察”というものが在るようで、ヨーナ・リンナ警部はその国家警察に勤務している。「ぼくの言ったとおりだったでしょう」が口癖で、何か飄々とした雰囲気であるのだが、「氷のようなグレーの眼」で睨んだ直観と推理に揺ぎ無い自信を持っている人物である。優秀なアシスタントであるアーニャのサポートを受けながら捜査に飛び回るフットワークの良さも見せ、射撃もなかなかに得意である。そして彼はフィンランド系であるようだ。

「“少数派人種”出身で、鋭い推理で飄々と動き回る“探偵役”」というのは、こういうミステリーの主役としては珍しくない存在だ。作者は彼が登場するシリーズを構想しているということなのだが、本作に関してこのリンナ警部をハッキリ“主人公”とせずに「“ダブル主役”の一方」としたのは、本作ではエリック・マリア・バルク医師が非常に大きな存在感を示しているからだ。

バルク医師は、“催眠セラピー”の手法を駆使してでも少年の証言を得ようとすることについて逡巡する。最初の方では理由を人には言わないのだが、“事件”が在って「二度とやらない」ということにしていたのである。ところが、危険に晒されている“一家惨殺事件”の家族の長女を救うという事情から、今一度それをやってしまう…そこから、彼の一家を巻き込む事件が“一家惨殺事件”と並行して発生してしまうのである…

本作では、何かリンナ警部の出番よりも、バルク医師の出番の方が若干多いような感じもする…或いは「主役はバルク医師」という言い方もしてみたくなる面さえ在る…

下巻の半ば辺りには、バルク医師が“催眠セラピー”を封印するまでに至った物語を綴った、“10年前”というかなり長い一節が在る。この“10年前”だけでも一寸した独立の物語になるかもしれないような雰囲気なのだが…この部分はバルク医師目線で綴られている。“一家惨殺事件”と並行して発生する事件に関しては、バルク医師がふと想い起した、彼の過去が重要な鍵になっていく…

こういう事情から、本作は“ダブル主役”と感じられるのである…そして、それが或いは「アッサリし過ぎて物足りない」ということにもなるのかもしれない印象を与えている原因にも思えるが…

本作では「そう来るか…」と“非常に驚く”程の謎やどんでん返しは見当たらないようにも思えるが、“闇”を抱えて凶行に走る者達が…なかなか怖い…この怖い状況に引き込まれたバルク医師と、彼と協力して事件に対応するリンナ警部の活躍…なかなか楽しめた…

或いは、本作は“シリーズ”の“オープニング”ということで、敢えてリンナ警部はアッサリした印象にしたのかもしれない…

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