『ボックス21』

最近『ミレニアム』3部作が非常に愉しかったことから、「スウェーデンのミステリー」と聞けば、何か大いに期待して手にしてみたくなる。

ハッキリ言えば、スウェーデンは“マイナー”―人口は1千万人を切る程度だった筈で、「“スウェーデン語”を学ぶことが出来る場所」も日本国内では極々限られた場所であろう…―であり、「にも拘わらず翻訳が出る」ということは、「各国でそれなりに人気が在る、面白い作品である」ということの“裏返し”と考えることも可能なのではないだろうか?更に換言すれば「“ハズレ”の可能性が低い」ということかもしれない…(スウェーデン語がマイナーなので、他の言語に翻訳されたものを底本にして翻訳という場合さえ在るであろうが…)

↓ということで手にした一冊である…

ボックス21
↑過日の札幌滞在中に入手し、“北上”の車中や、稚内帰着後の食事の序や宵の徒然に、一気呵成に読了してしまった…なかなかに引き込まれるものが在る…

本作のタイトルである“ボックス21”の“ボックス”とは、駅に在るコインロッカーのことで、“21”というのはそのロッカーの番号のことだ。本のカバーに在るイラストが示していることでもあるが…またこのロッカーは、話しの鍵にもなる…

本作に触れて、欧州各国で「深い闇」のようになっている“人身売買”に想いを巡らせてしまわざるを得なかった。これは『ミレニアム』の第2部でも取上げられているテーマだ。

欧州では、所謂「嘗ての東側」が相対的に貧しく、相対的に豊かである国々に若い女性―“少女”という年齢の場合も多々在るようだが…―が半ば騙されて連れ去られ、売春等を強いられるという事象が在るのだそうだ。どうもこれが非常に根の深い問題でもあるらしい…

本作の背景には、この“人身売買”という問題が絡まって来る…

ストックホルム市内のアパートで、「女性が男性に暴力を振るわれ、重傷であるらしいが、男性が現場アパートに関して“リトアニア領”である等と叫んで抵抗し、ややこしい事態になっている」という事件が起こった。暴行を受けた女性は、リトアニアのクライペーダから連れて来られた娼婦で、男は“ポン引き”だった…警察の介入で現場が収まった後、娼婦は大怪我を負って入院するが、その病院で“事件”が起こる…

大雑把に言えば、本作は上述の“事件”を軸に、他の事件や作中人物達が抱える様々なもので綴られたものである。「6月のストックホルム」というのが舞台に選ばれているのだが、「遅くまでなかなか暗くならない美しい街でありながら、何か肌寒い…」という描写が、作品世界に妙にお似合いである…

主人公格と視られるのは、重く深い哀しみ―彼の哀しみに関する描写だが、私は若干涙腺が緩んだ…“喪失”以上に厳しいものかもしれない…―を負った老警部である。「家に帰ることさえ投げ打って仕事をする」という、一寸取っ付きの悪い、警察部内では寧ろ関係者に敬遠されているような人物だ。

この老警部の、数少ない“友人”である別部門で活躍する警部、彼と一緒に巧くやっている数少ない人間である警部補、彼と折り合いが好くない検事、“事件”を起こしてしまう娼婦、一緒に北欧にやってきた娼婦、同時に進行した他事件に関連する被害者、目撃者、容疑者という人達が作中世界を彩っている…

娼婦の過去が挿入され、現在進行中の幾つかの事件が描かれ、少しずつ“秘密”が仄めかされる。最終盤に関しては「そう来るか…」というような、やや驚く結論が用意されている…

全編を通じて老警部が主人公のように見えるが、終盤は寧ろ警部補が主人公であるように思える。彼は、折り重なった色々な意味合いの“秘密”を知り、葛藤を経験することになる…

本作は入念に練り上げた様々なモノが、丁寧に積み重ねられて、「深く暗い世界」を構築している…ページを繰り始めると、止め難くなる一冊だ!!

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