『天地人』―「人が人らしく在る」ための旗印? “直江兼続”が現代に投げ掛けるものは?

「連休前にふらふらと入手」の数冊の中から、二冊を大変愉しく読了した。四冊目、五冊目になってしまった…一応これで、「連休前にふらふらと入手」の数冊は段落だ…

実は、「連休前にふらふらと入手」の数冊の切っ掛けとなったのは、“待望の文庫化”というようなことで、4月に上下巻2冊の体裁で初版が出たばかりの本作を偶々書店の店頭で見掛けたことだったのだ…


天地人 上

天地人 下

多くの皆様にとって御案内なように、本作は2009年に放映されたNHK大河ドラマの原案となった作品である。

ドラマのテレビ放映に先立つ2008年12月、東北地方を訪ねる機会が在ったのだが、方々で関連グッズが売られていたり、夥しい数になる宣伝の幟が方々で翻っているのを見掛けた。(グッズに関しては、何か求めようかとも思い立ったが、結局止めた…)

放映されたドラマの方だが…「毎回欠かさずに…」という按配で観ていた訳でもなかった…原案の小説とテレビドラマとは“別物”ではあるのだが、「多分こういう物語ではないのでは?」、「ここは過剰な演出に過ぎないか?」と、余計な知識が妨げるのか、何となく入り込み悪かったのだ…或いは単純に個人的な嗜好とドラマとが合わなかったのかもしれない…それでも、あのドラマでは“悪の首魁”という趣で描かれていたように見えた、松方弘樹演じる徳川家康のムードは気に入っていたが…

大河ドラマ…近年の作品では『風林火山』の主役“軍師・勘助”―味わいのある刑事モノ等によく登場する内野聖陽が演じていた…―のワイルドな風貌、醸し出す“男っぽさ”、ヒロイン達が先立ってしまう哀しさと、それを胸に秘めて闘う主人公の力強さ、主役が属する武田方の面々の雰囲気―派手目な立ち回りで討死した宿老達の感じ…―や、対峙する北条方、上杉方の主要人物達が醸し出すもの―北条は重厚だった…上杉謙信の煌びやかな感じや、その重臣達の不敵なムード…―が好きで、かなり真面目に観ていたが…

大河ドラマの方は必ずしも力が入らなかった『天地人』…何か巷で“ブーム”が変に煽り立てられているような感じに、勝手に「距離を置いてみよう」という気分になっていたのかもしれない…私自身は、どうも“流行”に関してはそういう反応傾向が在るのかもしれないが…

それでも『天地人』には“引っ掛かり”は残っていた…上杉謙信の後の、上杉景勝の代になってからの家中の人々の物語…これを大きく取上げた作品を知らない…上杉景勝を支えた直江兼続…かの前田慶次が私淑したという、なかなかの大人物だったことが伝えられるが、この人物を主役に据えた物語…『天地人』しか思い当たらない…

前置きや余談が長くなってしまったが、“引っ掛かり”の在った『天地人』の新しい文庫を手にして紐解き始めてみると、ハッキリ言って嵌ってしまった…休日を良いことに、“宿題”に勤しんだ他方で読書に興じる時間を確りと設け、一気呵成に読了してしまったのだ…頁を繰りながら、続きが気になって我慢ならないのでどんどん進み、終わってみると「一抹の寂しさ」さえ覚えるというような按配だ…

戦国時代、一定の軍勢の指揮を執るクラス以上の武士、或いは“歴戦の勇者”と畏敬の念で属する陣営に迎えられた武士は、各々の「こだわり」を反映させた、凝った華麗な軍装に身を包んだ。直江兼続もそうだった。彼は兜に“愛”の文字を掲げ、自らの陣にも“愛”の文字を書き込んだ旗を掲げた。この“愛”が何なのか?これが本作を貫くテーマかもしれない…

直江兼続は、少年時代から上杉景勝に仕えており、景勝が春日山城に迎えられてからは、かの上杉謙信の薫陶を受けた。本作の上杉謙信…一種の“哲人”である…「人が人である」、「人と人とを繋ぐ」のは“利”ではなく“義”だとする。「“義”とは何かを考えて行動せよ」というのが、本作の謙信が景勝や兼続に遺した教えである…

謙信と死闘を演じた武田信玄の陣営は、“ポスト信玄”の時代に弱体化し、終に滅びてしまう…その武田を滅ぼした織田も、“本能寺”の後にバラバラになる…何れも、武田や織田の陣営で人々を結び付けていたのは、“義”ではなく“利”だったという訳である…

上杉にしても、“ポスト謙信”の時代に入った直後に重大な内紛が生じてしまう。この辺りの経過が、本作の最初の“見せ場”であろう…

内紛を収拾した景勝や兼続は、豊臣政権の時代を経て、やがて“関ヶ原”の局面に至る…この辺りも“見せ場”だ…

更に…恐らくは“ポスト関ヶ原”の兼続の生き様…この物語の終盤部分…これが“最大の見せ場”かもしれない…「飽くまで生き延びなければならない」という道を彼らは選ぶのだ…

或いは…暫くの間、何か“利”というようなことばかりが取り沙汰され、“義”というようなものが置き忘れられているのかもしれない…だからこそ、“義”を合言葉に戦国時代末期の混迷した時代を駆けた上杉家中というようなものが、殊更に輝いて見える…という面があるような気がした…直江兼続が掲げた“愛”だが…これは「“義”の向かう先」に在るもので、真相は“愛民”ということなのかもしれない…

それにしても…偶々続けて火坂雅志作品に触れたが、何れもなかなかに好かった!!火坂雅志は新潟県出身で、郷土の英雄である上杉謙信や直江兼続には、愛着や思い入れが強いというが、『天地人』はそれが好い意味で滲み出ていると想う。




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