連載:Sakhalin (OCT 2009)― 新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)

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「“土産話”の類をまとめてみよう」と思い立った直接的な切っ掛けは、「サハリンで芝居を観た…それが素晴らしかった!!」ということなのかもしれない。とにかくも、この観劇が大変愉しかったので、それを多くの皆さんに伝えてみたかったのである。

今回のサハリン訪問で「或る程度は“個人的興味”に応じた動きも可能な状況」という中で、「面白そうな催し?」と情報収集を試みた。そんな中で「10月22日19時開演 新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)」という事実に触れた。10月22日夜と言えば…帰国前夜である…「行ける…」と思った…

ユジノサハリンスクの通称“チェーホフ劇場”…専属の劇団等を擁する、本格的な欧州スタイルの劇場だ。通常、劇場は10月か11月頃から年末年始を挟んで4月か5月位までの期間を“シーズン”と称して、様々な演目の興行を催す。そのシーズンは始まったばかりである…ということで、新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)は「今シーズン初」の上演である。“新作”なので、やや大袈裟に聞こえるかもしれないが「世界初」の上演ということになる。

予め劇場の予定を調べて旅程を組むでもない限り、「新作舞台劇の初演を、旅先である劇団の本拠地で観る」という機会など、滅多に在るものではない。今回の「10月20日から23日のサハリン訪問」というのは、随分以前から決まっていた日程だ。フェリーの“今季最終”という運航日程に鑑みて決めたという日程に過ぎないのだが…

10月22日にこの新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)の初演が在ることを知って「行ける…」と思っていたが、少し時間が経つと「お招きを頂いた…」と勝手に思い込んでいた…

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10月21日の日中、劇場の発券窓口を訪ねてみた。「明日の…」と問えば、係の人に「最後の1枚…」などと言われたが、600ルーブルの券が入手出来た!!大変幸運だと思った。通常、劇場の券には席番号が書かれてあるのだが、今回は指定席制ではない旨、係から一言添えられた…細かいことはどうでもいい!!券を入手出来たのだ!!有名なチェーホフの肖像画を入れた、やや手の込んだデザインの“生誕150年”が絡む2009-10シーズン向けに用意したと見受けられる美しい券を大切に財布にしまい込んだ…

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2010年はチェーホフの生誕150年である。また、サハリンの劇場も現在地に来る以前の、アレクサンドロフスク・サハリンスキーで劇場が興ってから80年目でもあるという。新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)は、そうした“記念の年”を彩る、劇場としての意欲、野心が込められた力作ということになる…

この新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)について、私自身は7月に聞いていた…

7月…このチェーホフ劇場を拠点に活動するジャズバンド<ヴレーミャ・ジャザ>が稚内にやって来た。この際、劇場の館長さんがバンドに同行して稚内に登場した…一度お眼に掛かると、なかなか忘れられない、独特な雰囲気の在る方だったが…

その7月の稚内で、この館長さんと一寸お話しをする機会が在った。館長さんは、劇場が力を注いでいる新作舞台に関して、非常に熱く語っていた…「チェーホフの『サハリン島』の舞台劇をやる。3人の俳優と2人のミュージシャンという出演陣で、50名、60名の小規模な会場で上演するような感じになる。スタッフ一同、精力的に準備に勤しんでいる。“サハリンを代表する作品”に育て、方々に出向いて上演出来るようになれば…」とである…

チェーホフの『サハリン島』…1890年、永い旅の果てに“流刑地”であったサハリンを訪ねたチェーホフが、旅のことと人々の様子を丹念に綴った“ルポルタージュ”的な作品である。ハッキリ言えば「どうやって“舞台劇”の原案にするのか?!」という作品に思える…

10月22日夕刻…これまで「寄ってみたい…」と思いながら、なかなか機会を設けられなかったレーニン通の喫茶店に立ち寄り、珈琲をゆったりと愉しんでから、家路を急ぐという風な人や車が多いコムニスチーチェスキー通を進み、劇場へ向かった…

振り返ると、1998年にモスクワで芝居を観て以来の“ロシアの劇場”である…「印刷実費?」というような30ルーブルのプログラムを入手し、ホールへの入場までの時間を館内で過ごす…俳優の写真が貼ってあったり、作家の胸像が据えられていたりと「ロシアの劇場の定番な内装」で「久し振りだ…」と妙に嬉しくなった。1993年9月から翌年6月までモスクワに滞在した頃、舞台劇が面白いので、周囲の人が愕くような頻度で随分と観に出掛けていたことが非常に懐かしく思い出される…

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ベルが鳴り、ホールへ誘導されてビックリである。何と、大きなホールのステージ部分の端に60席程度のシートが据えられ、「招待者指定場所以外は御随意に…」ということになっていたのである…その招待者というのは、恐らく州行政府の文化関係の局長さんか、部長さんかという雰囲気の二方だったが…結局、演者達が動き回るスペースの目の前、演者が語気を荒げて大きな声でも出せば、唾が飛んで来るかもしれないような距離で、60人程度の観客が開演を待ったのである。

新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)がいよいよ始まった…始まって数分で「『サハリン島』をどうやって“舞台劇”の原案にするのか?!」という、事前の懸念は吹き飛んでしまった。こういうのは、野暮な素人の“余計なお世話”である…上演時間は1時間35分から40分程度だった。飛ぶように時間は過ぎ、「もう終わった?こんな時間?」と終わってみると驚いてしまう程に引き込まれた…あの見事な脚本…出版されるようなことでもあれば欲しい位だ…

一口で筋書きを言ってしまえば…30歳の青年チェーホフが、“流刑地”サハリンを訪ねることを思い立ち、永い旅を経て辿り着いたサハリンのアレクサンドロフスクで様々な見聞をし、船でコルサコフへ出発する…という話しである。これが、或る意味では「原案の『サハリン島』以上」の迫力で観る者に迫る按配に仕上げられている。脚本を練った人、演出をした人、演じる人達…相当な努力が窺える…青年の心の旅…というような雰囲気であろうか?大変素晴らしかった!!

3人の俳優と2人のミュージシャンという出演陣…これが実に面白かった!!

劇中の効果音などは、アコーディオンとドラムスを軸に、2人のミュージシャンが担っている。一部のシーンでは2人も声を出していたようだ…何れも「なるほど…そういう具合に表現するか…」と唸ってしまった…

3人の俳優は男性2名、女性1名である。

男性の1人は“青年チェーホフ”の役である。冒頭「インフルエンザっていうやつか…」などと具合悪そうに部屋で蹲っている場面から、遥かなサハリンへの旅、アレクサンドロフスクで様々な人達と出会ったり、彼らからの聴き取り内容をカードに整理する様、更に旅を続けようと船に乗るという最後のシーンまで、“青年チェーホフ”はずうっと出ている。博物館の写真で見る御本人とそっくりという訳でもない―この俳優の方が、今風の好男子かもしれない…―のだが、何か「1890年のチェーホフ青年」が眼前で“心の旅”をしているかのようだ…

もう一人の男性…この人の“熱演”、或いは“怪演”には惹かれる…この人は、旅先からの手紙を受け取る人、チェーホフがダンテの『神曲』を読む場面での「心象風景に現れる松明を手にしたローブ姿の男」、複数の流刑者、巡察に現れた総督、官吏、ギリヤーク…と「各場面に必要な“チェーホフ以外”の全ての役」を一人でやっていた…話し方の癖、所作、表情、早替りの衣装で「同じ俳優が演じていると判りきっていながら、各場面の“役”に見える、感じられる」という見事な活躍ぶりだ…「“俳優”って凄い…」と感心するばかりである…

そして女性だが、彼女も「各場面に必要な“チェーホフ以外”の全ての役」というスタンスで、主に女性役を担っていた。一部、男性の役もやっていたが…乙女から老婆まで、何でもやっていた…この彼女はバイオリンを弾いたり、歌ったりと、なかなか器用な面も見せていた…これもまた見事だった!!

ステージ部分の端に陣取って、上記の「3人の俳優と2人のミュージシャン」が紡ぐ『サハリン島』の世界に引き込まれた。

舞台のセットには、とんでもなく大雑把に言って、「手が込んだものを造る…」という方向性と「抽象…」という方向性が在るように思う。「手が込んだものを造る…」ということでは、過去に観たものの中には「客席を何列か潰して、本当に水を張って劇中の湖を表現」してしまったものが在った…「抽象…」ということに関しては、程度の差は在るが、舞台劇では大概が用いている手法である。それでも、象徴的に舞台中央に据えられた“皇帝の玉座”のようなものが、妙にリアルで愕いたというような例は思い出すが…

新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)は完全に後者である。それも、かなり徹底的に「抽象…」している。何本かのベンチ、ベッドのような枠にスクリーンのような布を貼ったもの、大きなトランクというようなモノで各場面を見事に抽象していた。「舞台劇のパフォーマンスとはこういうものだ!!」という秀逸な演出だ!!トランクとベンチを駆使して、河を行く船、列車、馬車、船というような長大な旅の時間を表現した辺りは、殊に面白かった。演出と言えば…実物の石油ランプや、小さな花火も出て来てビックリしたが…

今回の新作舞台劇『サハリン島 第1章』(Остров Сахалин, часть первая)の演出だが、スウェーデン人の舞台監督が手掛けたものだという…或いは、サハリンのチェーホフ劇場が「“看板作品”として世界に発信」という野心を抱いていることが伝わる事実だ…

大喝采で上演が終了した…この劇を観て「“パワー”を貰った…」と思い、余韻に浸りながら引き揚げようとすると…唐突に“日本語”で「コンバンハ…ワッカナイノカタ?」と声が掛かった…60人程度入った観客を見渡した感じでは、私以外に“日本の人”と見受けられる人は居なかった…

声を掛けてきたのは劇場の職員だった…7月にジャズバンド<ヴレーミャ・ジャザ>が稚内にやって来た後、コンサートの写真をウェブギャラリーに載せた旨を館長さんに連絡してあったのだが、それが関係者の間で御好評を頂いたらしいのだ。それで私とバンドの皆さんや館長さんとが一緒に映っている、彼ら自身が持っていた記念写真も関係者の眼に触れていて、職員の方が記憶していたという次第だ…

その方と一寸お話しして、帰り際に“青年チェーホフ”を演じた俳優さんと握手をして貰い、皆さんに「大変素晴らしかった!!」ということと、「偶々こちらに来ると、やっていたので幸運だった…」という話しをし、劇場を後にした。

どうも館長さんは「7月の稚内」が非常に面白かった―丁度“北門神社”の祭で、館長さんとバンドのメンバーはそちらの方も愉しまれていた…あの時は天候もなかなか好く、街を歩くのも心地好かった筈だ…―らしく、土産話を繰り返ししている節が窺える…それは大変に結構だが…件の館長さんは出張中だったということで、御挨拶をすることは叶わなかったのだが…もしかすると劇場の部内で「『サハリン島』の初演には、例えば彼のように、わざわざ稚内からフェリーで観に来た人も居た…」という話しになっているかもしれない…苦笑してしまうが…

それにしても…こんなに上質な舞台劇がサハリンで観られる!!素晴らしい!!今回は本当に幸運だった!!今後、世界へはばたくかもしれない新作劇が登場した瞬間に、「多分、唯一の地元在住以外で外国人の観客」として立ち会う結果になったことは、大変なことだ!!そして、この新作舞台劇について是非とも御紹介したいと、多少文字数は嵩んだが、確り綴ってしまった…

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(Charlie at Wakkanai)

→今回のサハリンの写真はこちら…

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この記事へのコメント

  • 玄柊

    素晴らしい舞台だったイメージが伝わりました。うらやましい。
    2009年10月26日 13:18
  • モネ

    はじめまして。
    玄柊さんのHPつながりで拝見させていただいていました。
    「サハリン島第1章」の舞台、
    まるで唯一稚内から招待を受けていかれたかのようですね。
    「サハリン島」は、まだ全部読んでいませんが、来年はチエーホフ生誕150年ですか。
    ロシアがどんどん身近に迫ってきています。
    これからもブログ楽しみにしています。
    2009年10月26日 19:52
  • DJ Charlie

    >玄柊さん
    この劇ですが「60人の幸運な人だけが観られる」となかなか話題になっているようです。1年半も前の制作発表時点で注目されたようです。
    「舞台に上がるのは5人」としたのは、「方々で客演を…」という“野心”の裏返しのような気もします。「北海道に来る」展開も、“可能性ゼロ”ではないかもしれません…

    >モネさん
    はじめまして。拙作ブログをお楽しみいただけて嬉しいです。
    劇は上演日が「行ける!!」日だったので、勝手に「お招きいただいたようなものだ…」と思って会場に行きました。愉しい出来事でした。
    これからもよろしくお願いします…
    2009年10月28日 19:27